遺伝学的出生前検査の方法 

超音波検査妊娠11週~13週における超音波検査で胎児の首の後ろの浮腫み(NT: nuchal translucency)、鼻骨、三尖弁逆流、静脈管血流、心拍数などを調べる方法で可能性が高いか低いか、あるいは染色体異常の確率が何%という判断ができます。最近では妊婦さんから採血して血液中のたんぱく質やホルモン量を測る方法と組み合わせた方法(コンバインド検査、オスカー(OSCAR:One-Stop Clinic for Assessment of Risk)検査などと呼ばれています)によって、一部の染色体異常に関しては超音波検査だけよりも正確に確率が計算されています。

 しかし、これらの方法は、あくまで染色体異常である確率を出すだけであり、実際にその胎児に染色体異常が有るか無いかをはっきり知ることはできません。たとえば、妊婦さんの年齢から判断してダウン症のお子さんを妊娠している確率が1/300の方が、コンバインド検査やオスカー検査でダウン症の確率が1/2,000と判断された場合、生まれてくるお子さんがダウン症である確率は、年齢だけから判断される確率よりもかなり低くなりますが、それでも2,000人に1人はダウン症のお子さんが生まれるということになります。ですから、染色体異常のお子さんを絶対に産めないという方は、このような確率を出す検査ではなく、最初から有り無しをはっきり診断できる羊水検査を受けたほうがよいと言えるかもしれません。

羊水検査:羊水中には胎児から剥がれ落ちた胎児の細胞が浮遊していますので、これらの細胞を使って胎児の染色体を調べるのが羊水検査です。染色体異常(顕微鏡で観察できる大きさの異常)の有無をはっきり診断することができます。

絨毛検査1つの受精卵が分裂を繰り返し、一部は胎児に、一部は胎盤になりますので、基本的に胎盤の一部である絨毛の細胞と胎児の細胞は同じと考えられます。そこで、絨毛の細胞を使って染色体を調べ、間接的に胎児の染色体を調べるのが絨毛検査です。しかし、約1%に絨毛の染色体と胎児の染色体が一致しないことがあると言われており、その場合、改めて羊水検査をしなければ診断が確定しないこともあります。

NIPT:妊婦さんの血液の中には、染色体の断片であるDNAが浮遊しています。DNAは妊婦さんのものだけでなく、絨毛から出たDNAも含まれているため、妊婦さんの血液を調べることによって、胎児の染色体数の異常(主として、13トリソミー、18トリソミー、ダウン症と呼ばれる21トリソミー)を調べる検査が、NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査:non-invasive prenatal genetic testing)です。結果は、陽性、陰性として報告され、超音波検査と妊婦さんの血液検査を組み合わせたコンバインド検査やオスカー検査よりも正確と言われています。

 しかし、結果が陽性と出た場合は染色体異常がある、逆に、結果が陰性と出た場合は染色体異常が無いという意味ではありません。NIPTの結果は、単に染色体異常の可能性(確率)が高い、あるいは低いということを示しているにすぎません。特に疑陽性(胎児の染色体は正常なのに、NIPT結果が陽性と報告される)が少なくないため、陽性という結果が出た場合は、必ず羊水検査で確認する必要があります。

 また、染色体異常は、胎児の形態異常(いわゆる奇形)の原因の25%程度と言われており、胎児形態異常の75%は染色体の検査では発見することができません。さらにNIPTは染色体異常の中のほんの一部の染色体異常しか検査できないため、胎児形態異常の大半はNIPTでは知ることができません。NIPTを受けた後に超音波検査を受けて重大な胎児形態異常が見つかり、妊娠継続をあきらめなければならなくなった場合、高額なNIPTは受ける必要が無かったのではないかということになりかねません。そのため、もしNIPTを受けることを希望するのであれば、NIPTを受ける前(妊娠10週以降)に、胎児に大きな形態異常(無頭蓋症、全前脳胞症、body stalk anomaly、内臓錯位、心臓逸脱症、肺無形成症、巨大膀胱、人魚体奇形、結合双胎など)が無いかを超音波検査でチェックしておいたほうが良いでしょう。

 NHKスペシャル取材班/野村優夫さんが書かれた「出生前診断受けますか? 納得のいく「決断」のためにできること」(講談社)には、遺伝学的出生前診断のための検査についての説明や、胎児異常が出生前診断されたご夫婦が、その後、どのような決断をされたかなどの実話が数多くまとめられています。


胎児超音波専門外来に戻る



Copyright©2020 BABA Kazunori 
All Rights Reserved